浅田次郎の「おもかげ」

浅田次郎の「おもかげ」

 

 昨日(6月18日)に浅田次郎のおもかげを読み終える。この「おもかげ」の前に「メトロに乗って」を読んだ。二つの作品はどちらも地下鉄が大きな役割を占めている。

 

 浅田次郎といえば自分にとっては「蒼穹の昴」が最初の出会いだった。それ以前に(鉄道員(ぽっぽや)を映画館で観た。しかし、その時には作者と作品とが結び付かなかった。それまではテレビで時々見ることがあった。少しエッチで面白い作家というイメージが強かった。

 主人公の竹脇、65歳。定年の日に地下鉄で倒れ、生死の境をさまよう。自分も同じ年代で基礎疾患があるので他人事とは思えない。病院のベッドに寝ているのだが、意識の中で自分の過去へと戻っていく。

「地下鉄に乗って」と同じように戦争、そして終戦直後の貧しい時代がメインの舞台となる。

 最初は色々な人が出てきてくる。人間関係はそれほど複雑ではないが、それぞれの人たちの生い立ちが複雑。最初は読むのに時間がかかってしまった。しかし、終盤になりそれらが全てつながりをもつようになる。最後の10ページにこの「おもかげ」の意味がはっきりと読者に伝わってくる。一気に読んでしまった。この話に出てくる人たちは皆その時代を一生懸命に生きてきた人たち。

 

 作者の風貌からどうしてこのようなヒューマンドラマを描くことができるのだろう。年齢や体験から作者とこの竹脇という主人公とがダブるところがあるのだろう。また、読者の年齢により感じ方が変わってくる。六十を超え「死」ということを意識するようになった自分に、新しい生き方を提案してくれているようにも感じた。